TED和訳まとめ

TED和訳まとめ

TEDとは世界の叡智が講演をおこなう極上のカンファレンスです。

100年続くビジネスの構築方法


戦略家
BCGのMartin Reeves氏は、さまざまな業種のグローバル企業と戦略的に協議しています.Full bio

 

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皆さんが製品開発に 携わっているとしましょう 製品をデザインしました 今までにない製品で 「ヒトの免疫システム」と言うものです 皆さんは この製品を 疑り深く 生真面目な上司に提案します 名前はボブとしましょう 皆さんの周りにも 1人くらいいるでしょう? さあ どうなるでしょう?


0:34


ボブ すごいアイデアがあるんです 全く新しいタイプの 個人用の健康商品で ヒトの免疫システムと名付けました なにやら難しい顔をされていますね でも 心配無用です 複雑なのはよく分かっています 事細かな説明をするつもりはありません ただ この製品の素晴らしい特徴を いくつかお伝えしたいのです まず この製品は賢くも 「余剰性(Redundancy)」を使います 各部品のコピーを 百万単位で用意しています 白血球や白血球細胞など それらが実際に必要になる前に 不測の事態に備えて 大幅に余裕を持たせているのです さらに すごいことに 「多様性(Diversity)」もあります 白血球だけではなく B細胞やT細胞 ナチュラルキラー細胞 免疫体があります そこに何があるかは あまり関係なく 重要なのは これらが一緒になって 多様なアプローチを可能にし 進化の過程でなしうること ほぼ全てに対応できるということです また この製品は完全な 「モジュール式(Modularity)」です 皮膚という表面のバリアがあり 瞬時に反応する自然免疫システム さらに 対象をかなり絞った 適応免疫システムがあります ここで重要なのは もし一つのシステムが対応できなくとも 他でカバーすることで 事実上 完璧なシステムとなる点です


1:54


頑張ってついてきてくださいよ ボブ ここからが 秀逸なんですから 「適合性(Adaptation)」があるんです これまでに出会ったことすらない抗原に 対抗できるような免疫体を 実際に作ることもできるのです また特筆すべきは これを行う上での 「思慮深さ(Prudence)」です あらゆる小さな脅威を 見つけたり 対処したりし 更には 今後また出会う可能性を考慮して これまでの脅威を覚えておくのです 今日 私がご提案する製品は 実は それ単体で使うのではなく 「組込み式(Embedded)」で 人体という大きなシステムに埋め込むものです この製品は 既にあるシステムと 調和しながら これまでにないレベルの 生物学的な保護を作り上げるのです ですからボブ 正直に教えてください この製品をどうお考えですか?


2:47


するとボブは こう言うでしょう 君がこのプレゼンにつぎ込んだ 努力と情熱を 本当にありがたく思うよ かくかくしかじか―


2:56


(笑)


2:58


でも正直言って ナンセンスだよ 話を聞くところによると 君の製品のセールスポイントは 効率が悪くて複雑なことみたいだ 80–20の法則を習っただろう? それに この製品はサイロ化してるって 言うじゃないか 過剰反応して 新しいものを作っていって 他人の利益になるよう デザインされている 申し訳ないけれど 成功するとは思えないよ


3:26


もしボブの考えに同調するなら もっと効率的な免疫システムを 作ることができるでしょう 短期的に見れば 効率性は常に重要です 単純で 効率的で お金に見合う以上の効果が得られる そんな製品にダメとは言いませんよね? 残念ながら ごくごく小さな問題があります この製品を使う側の 皆さんや私がおそらく 冬が来たら1週間も経たないうちに 死んでしまうんです 新型のインフルエンザウイルスに 出会っただけでです


3:56


生物学とビジネス そして寿命とレジリエンスとの関係に 私が最初に興味を持ったのは グローバルなテクノロジー企業のCEOから 大変珍しい質問をされた時のことです その時の質問は 「我々の会社が百年続くには 何が必要だと考えますか?」 無邪気な質問のようですが 想像するよりも 少し難しい質問なんです と言うのも アメリカの公開会社は 平均寿命がたった30年だからです そこで働く従業員の寿命の 半分もないんです


4:38


そのような会社のCEOとして 出資者にせっつかれ 変化に打ちのめされたとしても 30年後の将来に 思い悩まないからと言って 非難はされないかもしれません でも これを聞くと 夜も眠れないかもしれません あなたの会社が 5年すらもたない可能性です 平均して32パーセント 信じがたい状態です これは3分の1の確率で 5年以内に会社が乗っ取られたり 倒産することを意味しています


5:12


ここで技術会社の CEOの質問に戻ります こういった話は 自然界に聞いてみるのが得策でしょう どんな会社よりも 長い間 生と死を 繰り返しているんですから えせ生物学者の私は 早速 本物の生物学者に 連絡してみることにしました 友人のサイモン・レヴィンです プリンストン大学の 生物学と数学の教授です 彼と一緒に調べたのは 生物界のあらゆるシステム 自然界の熱帯雨林から 人が手を加えた森林や漁場まで そして 次のように問いかけました 何がこれらのシステムを レジリエントで永続的なものにしているのか?


5:55


私たちが見つけた答えは あの6つの法則― 先ほどお話しした ヒトの免疫システムの奇跡を支える法則を 常に繰り返しているということです 余剰性から その組込みまで 実際にこの原則は 生物学的に 長期間続いているシステムだけでなく 長く息づいている 社会システムの特徴として 見出すことができます 例えばローマ帝国カトリック教会です 驚かれるかもしれません 私たちはビジネスにも掘り下げていき 全く同じ原則が レジリエントで恒久的なビジネスの 特徴として見出せ これが不在の場合には 短命に終わるということが分かりました


6:38


それでは まず 企業の免疫システムが 失敗した例を見てみます この美しい建物は 四天王寺の一部で 日本の大阪に所在します 実は日本でも 最も古い寺院の一つで 韓国人の工匠の手によって 建てられました 当時は日本にお寺はなかったからです この工匠らが寺院建設の会社を 立ち上げたのです 驚くべきことに この会社 金剛組は― 1,428年も続きました 事実 現存する世界最古の 会社になりました


7:20


では金剛組の現在の様子は どうでしょうか? 残念ながら 思わしくありません 日本のバブル景気の時期に 不動産への投資をするために 多額の借金をしましたが バブルがはじけたことで ローンが返せなくなりました 経営は破たんし 大手の建設会社に 身を委ねたのです 不運にも 40代にわたる金剛家の 慎重な経営の後 金剛組が失敗してしまったのは 思慮深さという原則を適応しないという ミスをしてしまったからでした


7:59


企業の失敗と言えば コダックの失敗が有名でしょう 倒産を発表したのは 2012年の1月のことでした もっと興味深いことがあります 富士フイルムは 同じ製品を扱い 同じデジタル技術の重圧の下 同じ時期に存在していながら なぜ生き残り かつ成長することができたのか?


8:29


富士フイルムは 自らの 化学、材料科学、光学分野の技術を 実に様々な分野に転用したのです 化粧品から薬品 医療システムから生体材料までです もちろん 幾つかの分野では 失敗してしまいました しかし全体としては 自身のポートフォリオを 十分に適応させ 生き残り 成長できたのです 富士フイルムのCEOである 古森重隆が言われたように ライバル企業よりも 「多くのポケットと引き出し」があったことで この戦略は成功したのです 彼が意味するところは ライバルに比べて より多くの 選択肢を作ったということでしょう 富士フイルムが生き残れたのも 思慮深さと多様性 適応力の原則を 駆使したからです


9:20


ご覧のような 壊滅的な工場火災が たった一夜で 焼き尽くしたのは 自動車ブレーキシステムのバルブを トヨタに供給する唯一の工場でした レジリエンスに対する究極の試練です 車の生産自体が ギーッと急停止しました それではトヨタはどのようにして 車の生産を復活させたのでしょうか? どれくらいかかったと思いますか? ほんの5日間です ブレーキバルブが全くない状態から 完全に立ち直るまで5日間です どう成し得たのでしょう? トヨタサプライヤーと 強固な連携体制を築いており トヨタの迅速な行動で 複数のサプライヤーから協力を得て 足りないブレーキバルブに 生産能力を振り替えることで 車の生産を再開できたのです トヨタは この原則を用いました 「モジュール式」の供給網 統合システムに「組込み」 そして― 機能的な「余剰性」で スムーズに既存の能力を ほかに転用しました


10:33


幸いにも 破壊的な火災によって 潰れてしまう会社は 多くありません でも新聞で毎日 目にするのは 破壊的技術によって 潰れてしまう会社でしょう それでは どうやって メガネレンズの大手 エシロールは 破壊的技術を免れるだけでなく そこから利益を得られているのでしょうか? そうです 破壊的技術は ソフトウェアと電子機器業界固有の 問題ではないのです エシロールは 競合環境を丁寧に調査し 破壊的技術になりそうなものを 見つけます そういった技術を 非常に早い段階で買収し 技術が高騰したり 競合会社が集まってくる前にです そして そういった技術を 自身で開発して行きます 失敗や自己破滅のリスクを 負ってでもするのです エシロールは 常に他者の先を行くことで 素晴しい成果を上げています 40年以上もです 思慮深さと適応性の原則を 使っているのです


11:34


オーケー ではこの原則が そんなにもパワフルなら ビジネスにおいて どうしてこれが常識ではないのか? なぜ この言葉を頻繁に耳にしないのか? 変化とは人の内側から 始まるものでしょう ボブへの売り込みを思い出してください ヒトの免疫システムの奇跡に 基づく原則を適用するには ビジネスについての考え方を まず変える必要があります 私たちは 普段 ビジネスについて考える際に 「機械的な考え方」をしています ゴールを設定し 問題を分析して 計画を立てて それを着実に実行する そして何よりも 効率性と短期的な成果を優先します ただ誤解しないでくださいね これは比較的 安定した環境で 比較的 単純な問題に取り組む際の 本当に実践的で効果的な方法なんです これは ボブだけでなく おそらく私を含めた多くの人が 日々 直面している ほとんどの問題を処理する方法でしょう 実際 ビジネスにおいて かなり良いメンタルモデルではありました 全体として― 80年代半ば頃まででしょうか グローバル化 そして テクノロジーと電気通信分野の革命で ビジネスが よりダイナミックで 先が見えなくなった時です


12:48


しかし現在の私たちが 数多く直面している よりダイナミックで 先が見えない状況ではどうでしょうか? 私が考えるに 機械的な考え方に加えて 6つの原則に代表される 生物学的 考え方を マスターする必要があります 言い換えれば 私たちは より謙虚に そして繊細に いつ、どうやって 先が見えない複雑な状況を コントロールするのではなく 方向づけていくかを 考える必要があります ちょっと似ているのが ボールを投げることと 鳥を放つことです ボールはターゲットに向かって 直線を描くでしょうが 鳥なら そうはいかないでしょう


13:34


皆さんは どうお考えですか? 少しばかり非実践的で 理論的だと 思われているでしょうか 実はそうではありません 小さなベンチャー企業は どこも 自然と生物学的に考えたり 行動したりしているんです なぜか? 無理やり 周りの環境を変えるほどの リソースがないからです 変化を受け止める規模もなく スタートアップ企業の 生き残りという難題を 常に考えているのです もちろん皮肉な点は あらゆる大企業は 昔は小さなベンチャー企業だったわけです ところが いつからか 多くの企業が生物学的に考え 行動する能力を失っています 兼ね備えていた 生物学的に考える能力を 活性化させる必要があります そうして こんにちの厳しい環境で 生き残っていくのです


14:27


ですから短期的な成果だけを 考えるのはやめましょう 私が知っている企業だけでも 実際かなりの時間を割いて 戦略の中心となる問題を考えています 「我々は このゲームで有利か?」 それに加えて もう一つ 考えてみましょう より生物学的で 同じぐらい重要な問題です 「このゲームは いつまで続くだろう?」


14:48


ありがとうございました


14:49


(拍手)

 

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